言葉の問題

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短編小説「初めての試験」 下

 

kotobanokoto.hatenablog.com

 

カンニングにはカードを出すそうだ。

 

僕はイエローカードを手に持った。

 

イエローカードは二枚で退場だ。

 

ちなみにレッドカードは一枚で退場。

 

イエローカードとレッドカードのどちらを出すかは監督に委ねられている。

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主催者によれば、最初はイエローカードをどんどん出していいそうだ。

 

イエローカードを出すこと自体がカンニングの抑止力になるらしい。

 

と言っても僕は気が弱かった。

 

カードを出すのが怖い。

 

カードを出す用意はあるぞという雰囲気を作るので精一杯だった。

 

彼と目が合う。

 

彼は頭を下げた。

 

よし。

 

雰囲気は伝わった。

 

イエローカードをあわてて机に戻す。

 

あと二時間。

 

窓側の席の女性が手を挙げてこちらを見る。

 

監督補助に行ってもらう。

 

トイレらしい。

 

監督補助が受験者と教室を出た。

 

僕は困った。

 

一人になった。

 

まずい。

 

さっきの彼の頭が上がる。

 

窓側の席の男性も視線がうろうろする。

 

回答用紙から視線を離している受験者はすぐに分かる。

 

頭が一つ出るからだ。

 

イエローカードをまた手に持つ。

 

意を決した。

 

教壇の上から受験者を睨む。

 

窓側の席の男性は頭を下げる。

 

僕はあなたを見ています。

 

強い視線で受験者に無言の圧力を浴びせる。

 

さっきの彼も頭を下げた。

 

監督の仕事はまるでもぐら叩きだ。

 

監督補助が受験者を連れて教室に入って来た。

 

ほっとする。

 

監督補助に会釈をする。

 

監督補助が戻ってからは皆頭を下げたままだった。

 

圧力の効果はあったらしい。

 

緊張の中で時間が過ぎる。

 

もぐら叩きは続いた。

 

とうとう終了時刻が迫る。

 

「試験終了五分前です。」

 

僕は終了五分前を受験者に呼び掛ける。

 

僕の監督業もあと五分だ。

 

五分が経つ。

 

「試験終了です。」

 

ガラガラッ。

 

現場担当の男性が教室に入って来る。

 

「答案用紙の数を急いで数えて。」

 

現場担当の男性は顔を強張らせている。

 

監督補助が答案用紙を左側の席から回収する。

 

「何をやっているの。急いで。」

 

現場担当の男性は僕を急かす。

 

監督補助はあたふたした。

 

僕も右側の席から答案用紙を回収する。

 

僕は答案用紙の枚数を紙の重なりに気を付けながら数えた。

 

三十五枚。

 

回答用紙と受験者の数が合った。

 

現場担当の男性に枚数を報告する。

 

「試験終了です。忘れ物に気をつけてお帰りください。」

 

現場担当の男性は受験者に怒鳴った。

 

受験者は帰りの用意を始める。

 

緊張が頂点を越した。

 

僕は今日の仕事を振り返る。

 

緊張の中で試験監督の仕事はうまくできたのだろうか。

 

窓側の席の男性が僕に近づく。

 

「あなたは問三のリスニングの問題、解けました?」

 

彼は僕に尋ねた。

 

僕は答えた。

 

「はい、あの問題は解けました。でも難しかったです。」

 

「やっぱり難しかったんですね。」

 

僕は彼の問いに答えられた。

 

よかった。安心した。

 

初めての試験監督の仕事は終わった。

 

短編小説「初めての試験」 完

 

 

読んでくださりいつもありがとうございます。

感謝しています。

 

明読斎

 

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短編小説「初めての試験」 上

今日の仕事は上手くできるだろうか。

 

試験会場は自宅から電車を四十五分乗り継いだ場所にあった。

 

有名な大学のキャンパスだ。

 

今日はこの会場で日本語の試験が行われる。

 

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と言っても僕は試験を監督する側だ。

 

僕は日銭を稼ぐ必要があった。

 

だから試験監督の仕事に申し込んだ。

 

日本語試験は英検やTOEICのようなもの。

 

日本で仕事をしている外国人がハクをつけるために受験する。

 

今日は休みだからキャンパスは静かだ。

 

集合の時刻まではまだ時間がある。

 

指定された教室に余裕を持って入った。

 

席に座ってしばらく待つと全員が揃う。

 

主催者が説明を始めた。

 

「この試験は毎回問題が起こります。」

 

「監督がしっかりしていれば問題を回避できます。」

 

「一番多い問題はカンニングです。」

 

僕はずいぶん監督に圧力をかけると思った。

 

主催者が注意事項を読み上げる。

 

注意事項によれば受験者が日本語の書かれた服を着てきた場合は、その服を脱いでもらうらしい。

 

過去にカンニングの疑いで問題になったそうだ。

 

「まじかよ。」

 

僕は早々にげんなりした。

 

試験監督をやるのは初めてだ。

 

初めてにしては受験者の服を脱がすのは荷が重すぎる。

 

「試験監督募集 日給一万円 高給」のキャッチコピーに踊らされたことを後悔した。

 

主催者による説明は続く。

 

僕は周りを見た。

 

他の監督の年齢は二十代から五十代ぐらいで男性も女性もいる。

 

主催者は三十代と思われる女性だった。

 

その後ろには現場担当の男性が腕を組んでいる。

 

四十代ぐらいだ。

 

主催者は一通りの説明を終えた。

 

「冊子の通りだ。」

 

試験監督のやることは受験者への呼び掛けと不正行為の監視だった。

 

呼び掛けは

 

「試験開始。」と、

 

「試験終了。」

 

が重要だった。

 

その他の時間は不正行為を監視する。

 

傍には監督補助がついているので、仕事を分担することを求められた。

 

「表にあるようにペアを組んでください。」

 

主催者は冊子を閉じて言った。

 

黒板に貼られた表の通りに試験監督と監督補助がペアを組む。

 

僕は試験監督。

 

監督補助は女性だ。

 

僕は女性の近くに行く。

 

「今日は一日よろしくお願いします。」

 

僕は女性に言った。

 

「こちらこそよろしくお願いします。」

 

女性は答えた。

 

「では持ち場についてください。」

 

僕は主催者の合図で持ち場に向かった。

 

監督補助と二階へ上がる。

 

「この教室ですね。」

 

持ち場の教室の前で監督補助が言った。

 

教室は会場作りをする必要がある。

 

余計なもの、例えば大学で普段使っている掲示物は模造紙で覆い隠す。

 

日本語が書かれていると問題になる。

 

監督補助と手分けして模造紙を貼り終える。

 

いよいよ僕は教壇に立った。

 

入室時刻になり受験者が次々と教室に入る。

 

受験者が受験票を見ながら席を探す。

 

だいたいはアジアの方だ。

 

僕は手に汗を握る。

 

試験監督の仕事が始まる。

 

「受験票の受験番号と席に書かれた受験番号が合っているかを確認してください。」

 

主催者の話では受験者は基本的に日本語を理解しているらしい。

 

だから呼び掛けも日本語でよいのだそうだ。

 

僕は呼び掛けながら受験者の服を確認した。

 

受験者の服を脱がさなくて済みますように。

 

席が徐々に埋まる。

 

服の問題は今のところ大丈夫だった。

 

受験者のうちの半数は参考書を見ている。

 

残りの半数はこちらを見ている。

 

カンニングしそうだという目で見ればしそうに見える。

 

最後の受験者が席につく。

 

コートを脱いだ。

 

コートの下は縞のトレーナーだった。

 

良かった。

 

服の問題は終わった。

 

冊子の通りに呼び掛けを始める。

 

監督補助が回答用紙と問題用紙を配る。

 

「試験開始の合図で試験開始です。」

 

受験者に最後の一行を呼び掛けた。

 

監督補助と時計を読み合わせる。

 

五、

四、

三、

二、

一、

 

「試験開始です。」

 

受験者はいっせいに問題用紙をめくった。

 

僕は教壇から全体を眺める。

 

三十五人。

 

皆頭を下げている。

 

よし。

 

カリカリカリカリ。

 

ペンを走らせる音が教室中に響く。

 

試験開始から十五分が過ぎた。

 

左側の席の男性の視線が泳いだ。

 

(カンニングか、それとも勘違いか。)

 

彼の視線はうろうろする。

 

下につづく。

 

いつもお読みくださりありがとうございます。

感謝しています。

 

明読斎

 

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ショートショート「本当の会社ごっこ」

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竹田は顧客に提案するパワーポイントのファイルを操った。

 

「竹田。ちょっと頼みがある。」

 

伊葉部長が竹田を呼ぶ。

 

竹田はパワーポイントのファイルを閉じて席を立った。

 

「はい。伊葉部長。」

 

竹田は伊葉部長の席に寄る。

 

伊葉部長は渋い顔をする。

 

「客がシステムにトラブルが起きたと文句を言っているんだ。」

 

「はあ。」

 

「ごっこでいいから、謝ってきてくれ。」

 

「ごっこですか。」

 

「フリだ。伝わればいいんだよ。」

 

「分かりました。謝罪ごっこですね。」

 

竹田は笑った。

 

竹田はカバンを持ち会社を出た。

 

竹田は電車内で思った。

 

小さい頃に鬼ごっこをした。

 

あれは鬼のフリをする遊びだ。

 

今は謝るフリをしに行く。

 

いくつになってもごっこ遊びをしている。

 

竹田は客先に着いた。

 

担当者の席に向かう。

 

竹田は神妙な面持ちをする。

 

「この度はシステムにトラブルがあり、誠に申し訳ございません。」

 

竹田は頭を下げる。

 

「まあいいよ。」

 

担当者は思ったより明るかった。

 

竹田は妙な感じがした。

 

トラブルを解決すると担当者は帰してくれた。

 

竹田は会社に戻った。

 

「ご苦労さん。」

 

伊葉部長は竹田を見た。

 

「ところで。」

 

「今期の売り上げにもっと数字が必要なんだ。」

 

「ごっこでいいから、契約書を作ってくれ。」

 

「ごっこですか。」

 

「フリだ。後で直すからいいんだよ。」

 

「分かりました。契約書ごっこですね。」

 

伊葉部長は笑った。

 

竹田は残業して契約書を作り上げる。

 

伊葉部長は先に帰った。

 

竹田は会社に泊まる。

 

竹田は疲れた。

 

孤独だと思った。

 

でもごっこだからいいかと思った。

 

いつの間にか眠る。

 

朝になり人の声がした。

 

竹田は並べた椅子から起き上がる。

 

他の社員がちらほらと来ている。

 

伊葉部長が出社した。

 

「伊葉部長おはようございます。契約書はできています。」

 

「ご苦労さん。」

 

「ところで。」

 

「うちの部から早期退職者を一人出すことが決まった。」

 

「ごっこでいいから。退職してくれ。」

 

「ごっこですか。」

 

「フリだ。また採用するからいいんだよ。」

 

「分かりました。退職ごっこですね。」

 

竹田は伊葉部長に退職願いを出した。

 

次の日になり中途入社の大嶋が伊葉部長に尋ねた

 

「竹田さんはまた採用されるんですか?」

 

「馬鹿を言え。竹田は本当の退職ごっこだぞ。」

 

大嶋は笑った。

 

 

いつもお読みくださりありがとうございます。

感謝しています。

 

明読斎 

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感情のこと

3Dメガネ

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赤いレンズで外を覗くと他人は赤く見えます。

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青いレンズで外を覗くと他人は青く見えます。

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メガネの枠を外すと赤と青のセロファンです。

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人間の感情は3Dメガネに似ていると思います。

レンズは愛と恐怖です。

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恐怖のレンズで外を覗くと他人は恐怖に見えます。

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愛のレンズで外を覗くと他人は愛に見えます。

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メガネの枠を外すと愛と恐怖が現れます。

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二つを縦にします。

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四角をつけます。

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電池マークです。

愛が力の源になっていることがわかります。

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恐怖が増えると愛が減ります。

では、どうしたら愛を増やせるのでしょうか。

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愛を増やすには感謝です。

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残りの愛に感謝します。

例えば今手に持っているものや、隣にいる人に。

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感謝をすると小さな愛が生まれます。

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感謝をします。

生まれる愛は小さいですが、恐怖は確実に減ります。

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感謝は感謝を呼び、愛は愛を呼びます。

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するといつしか体は愛でいっぱいになります。

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メガネに戻します。

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愛のレンズで外を覗くと他人は愛に見えます。

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いつもお読みくださりありがとうございました。

感謝しています。

 

明読斎 

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