竹田は顧客に提案するパワーポイントのファイルを操った。
「竹田。ちょっと頼みがある。」
伊葉部長が竹田を呼ぶ。
竹田はパワーポイントのファイルを閉じて席を立った。
「はい。伊葉部長。」
竹田は伊葉部長の席に寄る。
伊葉部長は渋い顔をする。
「客がシステムにトラブルが起きたと文句を言っているんだ。」
「はあ。」
「ごっこでいいから、謝ってきてくれ。」
「ごっこですか。」
「フリだ。伝わればいいんだよ。」
「分かりました。謝罪ごっこですね。」
竹田は笑った。
竹田はカバンを持ち会社を出た。
竹田は電車内で思った。
小さい頃に鬼ごっこをした。
あれは鬼のフリをする遊びだ。
今は謝るフリをしに行く。
いくつになってもごっこ遊びをしている。
竹田は客先に着いた。
担当者の席に向かう。
竹田は神妙な面持ちをする。
「この度はシステムにトラブルがあり、誠に申し訳ございません。」
竹田は頭を下げる。
「まあいいよ。」
担当者は思ったより明るかった。
竹田は妙な感じがした。
トラブルを解決すると担当者は帰してくれた。
竹田は会社に戻った。
「ご苦労さん。」
伊葉部長は竹田を見た。
「ところで。」
「今期の売り上げにもっと数字が必要なんだ。」
「ごっこでいいから、契約書を作ってくれ。」
「ごっこですか。」
「フリだ。後で直すからいいんだよ。」
「分かりました。契約書ごっこですね。」
伊葉部長は笑った。
竹田は残業して契約書を作り上げる。
伊葉部長は先に帰った。
竹田は会社に泊まる。
竹田は疲れた。
孤独だと思った。
でもごっこだからいいかと思った。
いつの間にか眠る。
朝になり人の声がした。
竹田は並べた椅子から起き上がる。
他の社員がちらほらと来ている。
伊葉部長が出社した。
「伊葉部長おはようございます。契約書はできています。」
「ご苦労さん。」
「ところで。」
「うちの部から早期退職者を一人出すことが決まった。」
「ごっこでいいから。退職してくれ。」
「ごっこですか。」
「フリだ。また採用するからいいんだよ。」
「分かりました。退職ごっこですね。」
竹田は伊葉部長に退職願いを出した。
次の日になり中途入社の大嶋が伊葉部長に尋ねた
「竹田さんはまた採用されるんですか?」
「馬鹿を言え。竹田は本当の退職ごっこだぞ。」
大嶋は笑った。
いつもお読みくださりありがとうございます。
感謝しています。
明読斎
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