言葉の問題

言葉を教えたり、小説や漫画を載せる場所。

ショートショート「ファミレスでの会話」

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小説案内人・モリタ

「普段は無意識にする会話。

会話にあえて注意を払ってみると、会話の不思議さを感じることができます。

今回の話は、ファミリーレストランで三人の男性がする、ごく普通の会話です。

言葉を言い間違えたときに三人はいったいどうなるのでしょう。

おや、男性たちが店にやってきたようです。」


 僕は入り口の傘立てに傘を立てて、ファミリーレストランの扉を開けた。

小柄な女性の店員が笑って頭を下げた。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

彼女は右側の眉毛をわずかに上げた。

「三人です。」

僕は店員に向けて指を三本出した。

「喫煙席ですか?禁煙席ですか?」

僕は肩の雫を払い落とす赤根に言った。

「煙草吸うっけ?」

赤根は靴の雫を振り落としながら答えた。

「いや。宮ヶ瀬は?」

宮ヶ瀬は眼鏡を触りながら答えた。

「去年やめたよ。」

僕は指で口にバツじるしを作って店員に言った。

「じゃぁ禁煙席で。」

「手前側の席にどうぞ。」

僕は滑り込むようにソファに座った。

「さっきの話の続きだけど。」

テーブルを挟んで向かいの椅子の左に赤根、右に宮ヶ瀬が座る。

「さくら通り沿いの来満軒ね。」

顔についた雨を気にする赤根が言う。

「来満軒の話。」

僕はズボンのポケットからハンカチを出す赤根に言った。

「来満軒の焦がし醤油ラーメンに入っている、シナチクが美味いんだよ。」

宮ヶ瀬はメニューを眼鏡越しに睨む。

「俺はアボカドハンバーグにするよ。」

宮ヶ瀬は声を張って言った。

宮ヶ瀬はメニューをテーブルにそっと置く。

「美味しそうだね。俺はチーズインハンバーグにする。」

僕は笑いながら言った。

「シナチク?」

赤根はハンカチで顔を丁寧に拭き、来満軒の話を続けた。

「来満軒のシナチクにスープが染みて美味いんだよ。」

「チーズインハンバーグ?」

宮ヶ瀬は一度置いたメニューを渋い顔でまた開く。

「アボカドハンバーグはやめる?」

僕はメニューを睨みながらめくる宮ヶ瀬に聞いた。

「確かにシナチクにスープが染みていると美味しいよね。」

赤根はハンカチをズボンのポケットにしまって首を縦に振った。

「スープに焦がしねぎが浮いて、そのねぎがまた香ばしいんだよ。」

僕は調味料の瓶を整列させる赤根に言った。

「宮ヶ瀬はどれにするか決まった?」

赤根は呼び鈴に人差し指を立てて宮ヶ瀬に聞いた。

「やっぱアボカドハンバーグでいいや。」

宮ヶ瀬は眼鏡を外した。

「アボカドハンバーグも美味そうだな。」

僕は眼鏡をかけ直す宮ヶ瀬に言った。

「じゃあ店員を呼ぶよ。」

赤根は人差し指を立てて、爪で呼び鈴を押した。

「あの店員って俺らが学生の頃からいるよな。」

僕は指先をスリスリとこする赤根に言った。

「本当だよね。」

赤根は右手を口に当てて笑った。

「俺らは学生の頃からここに集まっているよな。」

背もたれにどっかりと寄りかかる宮ヶ瀬に言った。

「焦がしネギって青いの?白いの?」

宮ヶ瀬は伸びをして来満軒の話をした。

「黒っぽい青だよ。」

「あの店員と初めて会ったのって俺らが大学二年のときだっけ?三年のときだっけ?」

赤根がおしぼりでテーブルを拭きながら聞いた。

女性の店員が注文を取りに来た。

「ところでシナチクってたけのこ?それともきのこ?」

楊枝の袋を開けながら宮ヶ瀬が聞いた。

「たけのこだよ。」

僕は楊枝で歯をつつく宮ヶ瀬に言った。

「大学二年のときだよ。」

僕はテーブルのごみを指先で集める赤根に言った。

「注文はお決まりでしょうか?」

彼女は右側の眉毛を上げて注文を取る。

僕は赤根と宮ヶ瀬に聞いた。

「二人は結局どれにするの?」

二人は声を揃えた。

「焦がし醤油ラーメンはある?」

彼女は困った顔でぶっきらぼうに答えた。

「すみません。焦がし醤油ラーメンは当店にはございません。」

僕はメニューに顔を隠した。

「注文を間違えたようです。」

二人は不満そうな顔をした。

二人は僕の話を聞いていなかった。

 

 

ショートショート「ファミレスでの会話」 完