言葉のこと

言葉を教えたり小説を載せたり。

小説「統合失調症発症物語 」   第三話「秋乃さんと僕」

順哉は湯飲みに入ったお茶を両手で飲んだ。

清美さんは姿勢を正した。

「病気の症状が出たのね。」

僕はレポート用紙を手に持った。

「何をやってるの?」

体格のがっしりした男性が向かいの椅子に座った。

「秋乃さんおはよう。」

清美さんが答えた。

「彼は秋乃さん。解離性同一性障害で苦しんでいるの。」

「秋乃です。よろしく。」

「おはようございます。よろしくお願いします。」

僕は秋乃さんに挨拶をした。

「今彼が小説を書いているところなの。」

清美さんは秋乃さんに説明した。

「へー。面白そうだね。俺は、他人が書いた小説を読むのが好きなんだ。是非、君の話しを聞かせてよ。」

秋乃さんは僕が持ったレポート用紙をテーブルに置いた。

「ありがとうございます。続きを読みます。」

僕は二つ目の出来事を読んだ。

『母親が窓の外に向かって助けを求めた。』

僕は助けを呼ぶ母親の携帯電話を持ち、実家から外へ出た。

携帯電話に天からの指令が来ると思った。

「つまり妄想ね。」

清美さんは視線を落とした。

「大変だったね。外へ出てどうしたの?」

秋乃さんが続きを促した。

「外へ出て。」

僕は記憶を辿った。

夕方まで、あてもなく街を歩き続けた。

夕方になり、駅の敷地に並ぶ白いコンクリートの倉庫を見て、倉庫の上に上がれば昇進できると思った。

僕は上がるしかなかった。

まるで会社の中で置かれた立場のようだ。

僕の妄想のきっかけとなったのは、昇進しなければ後がないという恐れだ。

「なんか君の話しって。」

秋乃さんが言った。

「どこかで聞いたことがあるんだよな。」

僕は秋乃さんの顔をよく見た。

女性のようにまつ毛が長かった。

「どこでですか?」

「思い出してみるよ。」

「お願いします。」

僕は食堂を見回した。

正面の廊下の突き当たりに座禅を組む人影が見えた。

僕は視線をテーブルに落とす。

「次に。」

僕はレポート用紙を読んだ。

『鉄道会社が設けた柵を乗り越えて、無断でその敷地に踏み込んだ。』

僕が鉄道会社の敷地に入るのと同時に、一匹の猫がニャーと鳴いて敷地の外へ出た。

自然の法則のようだ。

猫が外へ出たので僕は倉庫の上へ上がるしか行く道ががなくなった。

僕は理屈が頭から飛んだ。

白いコンクリートの倉庫の外壁に、茶色く錆びた梯子があった。

僕は梯子を登ることを勇ましいと思った。

上へ上がれば僕は昇進するのか?

僕は梯子に手をかけた。

梯子から伝わる温度は冷凍庫の中のように冷たかった。

右足を梯子に乗せた。

 

第三話「秋乃さんと僕」おわり。 第四話につづく。