言葉のこと

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小説「統合失調症発症物語 」  第七話「亀沢課長と僕」

「警察に囲まれたとき?」

清美さんは折り紙を折る手を止めた。

「はい。続きをまた明日話します。」

僕は消灯時間になったので清美さんと別れて部屋に戻った。

僕はレポート用紙を見た。

最後の一行が目に入る。

朝になり目が覚めた。

顔を洗い、身支度をした。

食堂に行くと清美さんが原稿用紙に向かっていた。

「おはよう。」

「おはようございます。」

僕はテーブルにレポート用紙を置いた。

「続きを聞かせてくれる?」

「はい。もちろんです。」

僕はレポート用紙を読んだ。

『僕は道路で警察に囲まれた。』

僕は二人の警察官に挟まれた。

次々に警察官が来る。

八人ぐらいだ。

一人の警察官が僕に言った。

「ゆっくり空気を吸って。」

道路の真ん中だ。

僕は言われた通りにした。

「何があったの?」

吸った空気を吐いた後、もう一人の警察官が尋ねる。

父親は僕の自宅にいつの間にか戻ったようだ。

「僕から見た世界には人間と虫がいるんです。」

僕は警察官に言った。

「君から見た世界には人間と虫がいるの?今捜査官が家の中を見ているから詳しく話して。」

僕は頭に浮かんだ考えは天からの指令だと思った。

「課長はどなたですか?」

「課長?どこの課長?」

警察官は怪訝な顔をした。

「あなた方の課長です。」

僕は天からの指令を警察官に言った。

「課長はここにはいないよ。」

二人の警察官は僕の両脇にぴったりと立つ。

自宅の扉の前まで警察官に連れられた。

僕の自宅の扉がゆっくりと開く。

捜査官が出て来る。

僕は警察署に連れて行かれることを直感した。

「あなた方の課長は誰ですか?」

僕は捜査官に尋ねた。

「課長は亀沢だよ。」

捜査官は僕に答えた。

僕は亀沢という名前を記憶した。

僕は二人の警察官に両脇を抑えられたままパトカーに乗せられる。

家の中に親の姿は見えなかった。

僕はパトカーの後部座席の中央に座る。

両隣に一人ずつ。

運転席と助手席に一人ずつ。

四人の警察官が乗る。

三十分ぐらい走ると殺風景な建物の前に到着した。

建物の中に入り、奥の部屋へと連れて行かれた。

部屋の出口はなく、窓もない。

クリーム色の壁で、真ん中に会議机が置いてある。

奥の椅子に座ると入り口から外が少しだけ見える。

取調室のようだ。

「今日一日にあったことを振り返ってもらえる?」

僕は一日にあったことを警察官に鮮明に伝えた。

一時間以上やりとりが続いたように思える。

「もっとまともな質問をしろ。」

向かいの椅子に座った警察官は無線のようなものを通して誰かと会話しているようだった。

僕は亀沢課長の名前を思い出した。

「亀沢課長を呼んでください。」

「うちの亀沢のことを知っているの?」

「大事なことなんです。」

亀沢課長に、僕から見た世界には人間と虫がいることを言うつもりだ。

「亀沢はいないよ。」

亀沢課長に大事なことを伝えられずに終わった。

僕はワゴン車に乗せられた。

また移動するようだ。

「仕事をうまくやるには他人が必要だよ。」

後部座席に僕。左側に警察官。中央座席と運転席と助手席に警察官が乗っている。

僕は警察官に囲まれていることを安心できると感じた。

警察官の中には虫はいないはずだ。

左隣の警察官が仕事の仕方をしきりに説明した。

車は広い駐車場に着いた。

大きな建物だ。

建物の中に入り廊下で長い時間待った。

声がして部屋に入ると椅子に座らされる。

正面の人が質問した。

「あなたから見た世界には人間と虫がいるんですか?」

僕は僕から見た世界には人間と虫がいることを伝えた。

短い質問が終わると八人の警察官が僕を囲んだ。

「何かまだ言うことはある?」

一人の警察官が僕に言った。

「ありません。」

僕は答えた。

警察官は部屋に散らばった。

部屋の扉が開いた。

上半分が透明で下半分がベッドのような、人一人が入れるカプセルが部屋に運び込まれた。

薬のカプセルのようでもあり、新生児が入る保育器のようでもある。

医師に言われた通りにカプセルに入る。

透明の蓋が閉じられた。

僕は瞼を閉じた。

虫はこのカプセルの中には入れない。

僕はやっと安心できると思った。

虫が心の外に出て以来、ずっと興奮していたことに気がついた。

薄れる意識の中で救急車のサイレンが聞こえる。

「警察と病院で精神鑑定があったのね。」

清美さんは湯呑みでお湯を飲む。

僕は清美さんを見た。

「辛かったです。」

僕もお湯を取りに行った。


第七話「亀沢課長と僕」おわり 第八話に続く。