言葉のこと

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小説「統合失調症発症物語 」   第八話「親と僕」 最終話

清美さんは原稿用紙に文章を書いた。

「救急車のサイレンが聞こえてどうしたの?」

「救急車のサイレンが聞こえて」

僕はベッドで寝ていたことに気がついた。

両手両足が動かない。

何かに縛られているようだ。

顔を右に傾けると壁に張り紙があった。

措置入院」と書いてあった。

都知事の名前も。

頭の中は混沌とした状態だ。

僕は顎を引いた。

腕に点滴がしてあるのが見えた。

その後から記憶が途絶えた。

白衣を着たおじさんが扉を開けたことに気がついた。

「もう大丈夫だからね。」

段々と意識が戻った。

僕は僕が置かれている状況を理解した。

鉄道会社の倉庫と、この薄暗い部屋が重なった。

「要はどちらも閉鎖空間ね。」

「倉庫の足場が崩れて落ちた先はその薄暗い部屋だということです。」

「僕は他人の頭をふみつけて、上へ上がろうとする過ちを犯したのです。」

「他人の頭をふみつけて上へ上がろうとするって本当に過ちなのかしら?」

「どういうことですか?」

清美さんは原稿用紙を渡してくれた。

「あなたの今までの言葉をこの原稿用紙に書いたわ。」

「あなたの本当の問題って。」

「僕の本当の問題?」

「家の問題よね?」

僕はいっさんの質問を思い出した。

「親か、山内先生かのどちらかを信じるとしたら、どちらを信じる?」

僕はあのときはどちらも信じると答えた。

本当に信じたいのは僕だ。

「あなたの親とあなたとの関係に問題があるのよね?」

「はい。」

「あなたの問題ってどうしたら父親を越えられるのか?でしょ。」

僕は清美さんのキラキラする瞳を見た。

「越える必要はあるのかしら?越えようとするほど苦しむように思えるわ。」

あなたはあなたの生き方でもいいのよ。」

清美さんは便箋を渡してくれた。

「私の住所。退院しても手紙をやりとりしましょう。」

「清美さん。ありがとうございます。」

僕は原稿用紙と便箋を受け取った。

僕はその後一週間ほど病院にいた。

秋乃さんは相変わらず秋乃さんだし、

いっさんは相変わらずいっさんだし、

順哉は相変わらず順哉だし、

星田さんは相変わらず星田さんだ。

山内先生ももちろん。

一週間が経ち、僕は閉鎖病棟の扉の前に立った。

両親が山内先生に挨拶する。

「どうもお世話になりました。」

閉鎖病棟は鍵が閉まっている。

看護師が扉の鍵を開ける。

扉が開く。

僕は荷物を抱えて一歩を踏み出す。

閉鎖病棟の外に出た。

前を見る。

車の中で父親が僕に聞いた。

「退院祝いに来満軒にでも行こうか?」

僕は父親に答えた。

「僕は幸八寿司に行くよ。」

 

長きに渡ってお読み下さりありがとうございます。

 

統合失調症克服記から続く物語はこれで完結です。

今の僕の状態は平常の状態です。

薬を飲み続ける必要がありますが、音楽を楽しんだり、

絵を楽しんだり、文章を楽しんだりすることができます。

統合失調症の症状は日常の彼方に忘れるぐらいにおさまりました。

今回改めて文章に起こしてみると僕が思ってもみなかった

考えや視点など気づくことがありました。

 

本当の問題は親との関係だったというのは書いてみて気づいたことです。

どうしたら親を越えられるのか?という問題は無意識に感じていた問題だったのだと思いました。

 

物語には出ませんでしたが、僕は勘違いをしていました。

その勘違いは僕は強いという勘違いです。

僕は弱いです。

順哉のモデルの人は本当に事故にあっても明るい性格でした。

順哉に弱さを題材にした小説を書くと約束して退院しました。

順哉の元にこの小説が届きますように。

 

ありがとうございます。

 

明読斎