言葉の問題

言葉を教えたり、自作の小説や漫画や音楽を載せるブログ。

短編小説「初めての試験」 上

今日の仕事は上手くできるだろうか。

 

試験会場は自宅から電車を四十五分乗り継いだ場所にあった。

 

有名な大学のキャンパスだ。

 

今日はこの会場で日本語の試験が行われる。

 

f:id:tanisuke1234:20180106074125p:plain

 

と言っても僕は試験を監督する側だ。

 

僕は日銭を稼ぐ必要があった。

 

だから試験監督の仕事に申し込んだ。

 

日本語試験は英検やTOEICのようなもの。

 

日本で仕事をしている外国人がハクをつけるために受験する。

 

今日は休みだからキャンパスは静かだ。

 

集合の時刻まではまだ時間がある。

 

指定された教室に余裕を持って入った。

 

席に座ってしばらく待つと全員が揃う。

 

主催者が説明を始めた。

 

「この試験は毎回問題が起こります。」

 

「監督がしっかりしていれば問題を回避できます。」

 

「一番多い問題はカンニングです。」

 

僕はずいぶん監督に圧力をかけると思った。

 

主催者が注意事項を読み上げる。

 

注意事項によれば受験者が日本語の書かれた服を着てきた場合は、その服を脱いでもらうらしい。

 

過去にカンニングの疑いで問題になったそうだ。

 

「まじかよ。」

 

僕は早々にげんなりした。

 

試験監督をやるのは初めてだ。

 

初めてにしては受験者の服を脱がすのは荷が重すぎる。

 

「試験監督募集 日給一万円 高給」のキャッチコピーに踊らされたことを後悔した。

 

主催者による説明は続く。

 

僕は周りを見た。

 

他の監督の年齢は二十代から五十代ぐらいで男性も女性もいる。

 

主催者は三十代と思われる女性だった。

 

その後ろには現場担当の男性が腕を組んでいる。

 

四十代ぐらいだ。

 

主催者は一通りの説明を終えた。

 

「冊子の通りだ。」

 

試験監督のやることは受験者への呼び掛けと不正行為の監視だった。

 

呼び掛けは

 

「試験開始。」と、

 

「試験終了。」

 

が重要だった。

 

その他の時間は不正行為を監視する。

 

傍には監督補助がついているので、仕事を分担することを求められた。

 

「表にあるようにペアを組んでください。」

 

主催者は冊子を閉じて言った。

 

黒板に貼られた表の通りに試験監督と監督補助がペアを組む。

 

僕は試験監督。

 

監督補助は女性だ。

 

僕は女性の近くに行く。

 

「今日は一日よろしくお願いします。」

 

僕は女性に言った。

 

「こちらこそよろしくお願いします。」

 

女性は答えた。

 

「では持ち場についてください。」

 

僕は主催者の合図で持ち場に向かった。

 

監督補助と二階へ上がる。

 

「この教室ですね。」

 

持ち場の教室の前で監督補助が言った。

 

教室は会場作りをする必要がある。

 

余計なもの、例えば大学で普段使っている掲示物は模造紙で覆い隠す。

 

日本語が書かれていると問題になる。

 

監督補助と手分けして模造紙を貼り終える。

 

いよいよ僕は教壇に立った。

 

入室時刻になり受験者が次々と教室に入る。

 

受験者が受験票を見ながら席を探す。

 

だいたいはアジアの方だ。

 

僕は手に汗を握る。

 

試験監督の仕事が始まる。

 

「受験票の受験番号と席に書かれた受験番号が合っているかを確認してください。」

 

主催者の話では受験者は基本的に日本語を理解しているらしい。

 

だから呼び掛けも日本語でよいのだそうだ。

 

僕は呼び掛けながら受験者の服を確認した。

 

受験者の服を脱がさなくて済みますように。

 

席が徐々に埋まる。

 

服の問題は今のところ大丈夫だった。

 

受験者のうちの半数は参考書を見ている。

 

残りの半数はこちらを見ている。

 

カンニングしそうだという目で見ればしそうに見える。

 

最後の受験者が席につく。

 

コートを脱いだ。

 

コートの下は縞のトレーナーだった。

 

良かった。

 

服の問題は終わった。

 

冊子の通りに呼び掛けを始める。

 

監督補助が回答用紙と問題用紙を配る。

 

「試験開始の合図で試験開始です。」

 

受験者に最後の一行を呼び掛けた。

 

監督補助と時計を読み合わせる。

 

五、

四、

三、

二、

一、

 

「試験開始です。」

 

受験者はいっせいに問題用紙をめくった。

 

僕は教壇から全体を眺める。

 

三十五人。

 

皆頭を下げている。

 

よし。

 

カリカリカリカリ。

 

ペンを走らせる音が教室中に響く。

 

試験開始から十五分が過ぎた。

 

左側の席の男性の視線が泳いだ。

 

(カンニングか、それとも勘違いか。)

 

彼の視線はうろうろする。

 

下につづく。

 

いつもお読みくださりありがとうございます。

感謝しています。

 

明読斎

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

いつも読んでくださりありがとうございます。

感謝しています。

作品の感想やアドバイス

雑談、疑問、質問は下の「コメントを書く」ボタンから

書くことができます。

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●