②精神疾患は24時間、あなたを攻撃する 中編
明:また事件があったんですか?
本:きわめて彼、個人レベルの事件なんだけど、情報技術の会社に就職した彼は、だんだん、声が聞こえるようになったんだって。
明:幻聴ですか?
本:うん。本人は認めないど、間違いなく幻聴だと思う。
明:逆に本さんは、なぜ、そう言い切れるんですか?
本:再会後、引きこもりをしていた彼と日々、長い時間を一緒に過ごしたんだが、 ある時、彼が僕の目の前でぼぅーと宙を見ていて、急に。「はいっ!」って大きな声で返事をしたんだ。
僕はなにがなんだか意味がわからなかったんで、「どうしたの?」と聞いたら、彼が隣にいる僕を驚いた顔で見て、「え!本。いまの話、聞こえなかったの?」目をまるくしてた。
彼は、その彼にしか聞こえない声に、「はい!」と答えていたんだ。 もちろん、その声は僕には、まるでなにも聞こえなかった。
彼は、「本当に、聞こえなかったの?」 と、何度も僕に尋ねてきた。 僕の方は、これが幻聴ってやつか!ってすごく驚いたよ。
あれは、本当に、患者本人にしか聞こえないんだよね。
明:周囲の人に自分の幻聴が聞こえてない、幻覚が見えていないのが、信じられないという症状はたしかにあると思います。
本:この彼はそれがひどくて、しょっちゅう幻聴を聞いていた。
明:本さんは彼が幻聴を聞いてるのが、わかるんですか?
本:だんだんと、なんとなくね。幻聴の内容はわからないんだけど、彼の表情やその後の言動に、それが現れるんだよね。
この彼は最後には、失踪して行方不明になってしまうんだけど、それまでの彼の何度かの危行から考えて、失踪の原因は幻聴による命令、指示の可能性も強いと思うな。
情報会社を辞める直前ぐらいには、彼はその幻聴に従って行動するようになっていた。
男女複数の人物の声が、彼に意識のある間中、いろんなことを話しかけてくるんだ。
明:それは実在の特定の誰かの声ではないんですね。
本:うん。 彼が言うには、声の主が何者かはわからないらしい。
彼が、幻聴に。「あなたは誰ですか?」と聞いても、「そんなことはお前には関係ない」と言って、教えてくれなかったらしい。
彼自身は、こうした幻聴も霊の仕業なのか精神疾患なのか、判断がつきかねているかんじだった。
あのさ、経験者である明さんに質問がなんだけど、霊の仕業なのか、精神疾患なのか、わからないものなの?
明:僕の場合は霊体験も、幻聴もありません。あったのは妄想です。
本:さらに質問なんだけど、明さんが悩まされた妄想は、なにかが見えたり、聞こえたりするわけでなく、あくまで、現実でない考え(ヴィジョン)に明さんが囚われてしまうというものなの?
それは周囲の人は、明さんの言動を通してしか知ることができない?
そして、明さん自身には、それが妄想であって、霊や宇宙意志からの通信ではないとわかるの?
明:その通りです。 現実でない考えに囚われてしまいます。
周囲の人は僕の言動を通してしか知ることはできません。 妄想のときは妄想の中に入り込みます。
なので妄想が現実だと思っています。 霊や宇宙意志が登場することはありません。
本:そうすると、リアルな夢のようなもので、現実にはなかった出来事をあたかも本当に体験したように思い込んでしまうわけ?
明:だいたいその通りです。現実にはない出来事も(僕の場合はいちばんひどいときは、ある組織に命を狙われるという妄想)現実にはないのですが、僕にとってはそれが現実に思えるのです。
だから実際に怖いし、逃げないと死ぬと思うんです。
本:それの症状がひどくなると、殺人や爆破事件を起こしてしまう人もいるわけ?
明さん自身から見て、今回の章の彼と明さんの症状の違いはなんでしょう?
明:最初の問いの答えは、そうだと思います。 ただ、殺人や爆破事件に至るにはそうとうな心理的距離があると思います。
怖い思いをしている最中に殺人や爆破はあまり思いつきませんよね? 逃げようと思うのが先です。
そうとうな心理的距離を超える何かがあって初めて殺人や爆破に至ると思います。思いつめて殺人や爆破に至ってしまうのは普通の人だって同じですよね?
本:障害者のグループホームを襲撃した元職員や京アニ放火の犯人は、それぞれどれに至る内的動機の妄想を作り上げていたと。
明:今回の章の彼と僕の症状の違いは幻聴か、妄想かという違いぐらいであまり無いと思いますよ。
本:今回の彼はまず、声の指示に従って、朝、会社に出勤するフリをして車で家をでて、静岡市へ向かった。
それが失踪事件になって彼の異常さが周囲に伝わった。
明:静岡へ行けと声に指示されたんですか?
本:だ、そうです。 朝、家を出る時に、見送ってくれるお母さんが、彼を殺そうと包丁を隠し持っているから注意しろと声に指示されていたそうだ。
明:危険な幻聴ですね。
②精神疾患は24時間、あなたを攻撃する 後編へと続く