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かぐやSFコンテスト落選作品「変わる教室」

みなさんおはようございます。

 

先日応募した「かぐやSFコンテスト」に落選しました。

 

大風呂敷を広げるだけ広げて閉じていない作品だったので、

 

ダメかなと思っていましたが、やっぱりダメでした。

 

せっかくなのでこちらで公開します^^

 

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「変わる教室」

 

サトルはカレンダーを見た。

カレンダーには2020年7月と書いてあった。

 

2020年?

今年は2050年のはずだ。

 

どうして30年前の日付になっているんだ。

サトルはカレンダーを見て訝った。

 

カレンダーを一枚めくる。

そこにはやはり2020年8月と書かれていた。

 

まさかとは思うけど、これはタイムスリップ?

よりによって30年も前に?

 

昨日は水素自転車で海岸まで行くという無謀な挑戦をした。

その結果、家に帰ったら疲れてすぐに寝てしまった。

 

そういうえばベッドに入る前は頭が若干痛かった気がする。

サトルは落ち着いて部屋の中を見回した。

 

雰囲気がどう見ても2050年ではない。

プラズマフォンも、量子ウォッチもない。

 

サトルは窓の外を見た。浮遊道路が無い!

外は浮遊道路がある代わりに、一面住居だった。

 

こうなると、サトルは頭が混乱した。

そもそも、どうしてこんなことになったのだろう。

 

サトルは頭を抑え、部屋の中をとぼとぼと歩いた。

部屋の脇にたたずむ鏡にふと目をやった。

 

恐る恐る鏡に自分の姿を映す。

鏡には10代と思える自分の姿が映っていた。

 

は?!

これは?

若い!

 

サトルはいよいよタイムスリップを信じざるを得なくなった。

いや、本当か?

タイムスリップなんて本当にあるのか?

 

でも、体はどう見ても10代だ。

突然頭痛がし、ある考えが脳裏をよぎった。

 

体が10代ってことは、もしかして30年後の時代から30年前のこの時代に、俺の中身だけがタイムスリップしたってことなのか?

じゃなければ今鏡に映っているこの姿の説明がつかない。

 

かすかな記憶だが、そう言えばここは30年前の自分の部屋のような気がした。

紺色の通学用バッグに黒い勉強机、紫陽花柄のカーテン、と全てが30年前の自分が持っていた物のように思える。

 

そして、この姿はどう見ても30年後の姿ではない。10代の姿だ。

体はタイムスリップしていないのだ。

 

そう考えると、サトルは自分で今考えた仮説の逆も成り立つことに思い至った。

 

逆か?

時間の流れは変わっていなくて、俺の中身だけが30年後にタイムスリップし、30年後の記憶と精神を持ってしまったのか?

 

サトルはそこまで考えて、その2つがほぼ同じ意味であることに気づいた。

どちらにせよ、俺の内側と外側には30年の開きがある。

サトルは力が抜けてすとんとベッドに腰を下ろした。

 

やっぱり昨日水素自転車で海岸まで行くなんて無謀な挑戦をしなければよかった。

しかし、サトルにとっては昨日がいつの時点での昨日なのかもはや曖昧になっていた。

 

俺はこの後一体どうしたら.....?

サトルは部屋の上方にあるカチコチとなる円形の時計を眺めた。

 

犬のキャラクターが両手で午前8時を指していた。

 

学校に行くしか無いか......こんな体だし。

サトルは内側と外側において、外側を優先した自分をおかしく思った。

 

その時、一階から母親の声が聞こえた。

「サトル、朝ごはんを食べて早く学校に行きなさい」

 

母親の声はサトルの記憶の声より若かった。

「今、行くよ」サトルはとりあえず返事をした。

 

30年前の風景はどこか懐かしかった。

サトルは一階へ降りると、居間のテーブルに置いてあるパンを口に挟み、ちらっと母親を見た。

 

母親はやはり30年前の姿だった。

「んじゃぁ、行ってくるわ」サトルはパンを口に挟んだまま玄関を飛び出した。

 

背中の方で「行儀悪いわね」という母親の声が聞こえる。

辺りは記憶にある風景とは違った。

 

雑居ビルや舗装道路、自動車にバイク。

どこもかしこも、レトロな感じに溢れていた。

 

俺は周りから見たらあくまでこの時代の人間だ。

変な行動は慎まないとな。

 

サトルは町の様子を少しずつ思い出した。

R中学は歩いて15分のところにあった。

いくら30年前と言っても中学校の場所ぐらいは記憶にある。

 

サトルは辺りを見回した。

30年後はこの辺も多次元駐車場に変わっている。

懐かしい風景はサトルの心にすっと染み込んだ。

 

それにしても、俺は一体どうすれば元に戻れるのだろう?

 

そして、元に戻ったとき、俺は果たしてこの時代の俺に戻るのか?

それとも30年後の俺に戻るのか?

 

その辺がどうも梅雨空のようにぼんやりとしていた。

とりあえず、外見に合わせた行動を取るしか無いか。

サトルは一人で納得した。

 

しばらく歩くとR中学が見えた。

サトルは心なしか緊張した。

 

30年振りの中学校だ。

どういう気持で校門をくぐったら良いのか分からなかった。

 

サトルは一人校門の前で立ち尽くした。

生徒が次から次へとサトルを避け、校門をくぐっていく。

 

サトルは目を瞑った。

軽く拳を握り、意を決して校門をくぐった。

灰色の校舎が視界に飛び込む。

 

あぁ懐かしい......。

 

いやいやいや。

待てよ、そもそも今の俺は一体何年何組なのだろう?

 

小さな疑問が胸にぽつりと浮かんだ。

学校まで来たはいいが、どの教室に入ったらいいのか分からない。

 

サトルは校庭をゆっくり歩きながら考えた。

俺は中1なのか、中2なのか、中3なのか?

 

そう考えた時、背後から不意に声がした。

「サトル、おはよう。ぼやぼやしていると遅刻するぞ」振り返ると幼馴染の寛巳が立っていた。

 

寛巳ィ。懐かしいな。元気そうだな?

サトルはそこまで考えて、元気そうだなというのはおかしいと思った。

 

30年後、寛巳とはお互いに仕事が忙しく、かれこれ14年ぐらい会っていない。

寛巳の見た目は自分と同じ、どこからどう見ても中学生だった。

 

サトルは30年前の寛巳と交わす会話に複雑な思いを抱いた。

寛巳は一生懸命話しかけてきた。

 

そして、体を動かす度にバッグにつけたギターのキーホルダーが揺れた。

サトルはそのキーホルダーを見て、いつも自分のバッグに学年とクラスを書いていたのを思い出した。

 

サトルは慌ててバッグを確かめた。

バッグの横にはマジックで「3−4」と書いてあった。

 

そうか。俺は今中3なんだ。

そういえば、3年のときは4組だったな。

ということは寛巳も同じクラスだったはずだ。

 

サトルは下駄箱で自分の上履きを探し出し、寛巳とともに教室に入った。

座席は教卓に置いてある座席表を見てなんとかなった。

 

それは突然だった。

座席に座ると同時に胸の中を強烈な違和感が襲った。

 

ここは30年前の教室のようであって、そうではないという違和感。

サトルはどうしてそんな違和感を感じるのか分からなかった。

 

辺りを窺っているうちに担任の日向先生が教室に入ってきた。

懐かしい。

日向先生だ。

 

日向先生はぎこちない様子で教卓を前にした。

「皆さんおはようございます。先生は今日調子が悪く、いつもの先生とは違うかもしれませんが、気にしないでください。先生は大丈夫です」

 

日向先生はそう言うと、一時間目までは自習だと言った。

サトルは寛巳の席に向かった。

 

「自習だってさ。日向先生、調子が悪そうだったな」サトルは寛巳に言った。

寛巳はうつむいたまま口を開いた。

「いや、サトル......。実は俺も調子が悪いんだよ」寛巳が弱々しく言った。

 

寛巳ってこんなに弱々しかったっけ?

何か胸に引っかかるものがあった。

 

それを言えば、俺だって調子が悪い。

というより、俺は本当は30年後の未来から来たんだ。

 

でも、そんなことは口が裂けても言えなかった。

俺はそんなことを言ったら最悪の場合変人扱いされてしまう。

だから、この問題は自分で解決するしかなかった。

 

「実はな」寛巳が再び口を開いたとき、驚く言葉が耳に飛び込んだ。

それは美夏が発した言葉だった。

 

「昨日、水素自転車で買い物に行ったとき」美夏は確実にそう言った。

耳を疑った。

 

2020年に水素自転車はない。

美夏に事実を尋ねる前に寛巳が動いた。

 

「美夏。今、水素自転車って言ったか?」

美夏はこちらを見た。

「じゃぁ、あなたたちも?」美夏は言った。

 

何人かの女子が美夏に賛同する。

サトルは戸惑った。

寛巳も水素自転車を知っている様子だった。

 

頭が混乱する。

ここは確かに2020年だ。

だが、ここにいる皆は未来を知っている。

 

「ってことは君たちも未来から?」サトルはクラス中を見回した。

クラスの皆が黙って頷いた。

 

クラス中の皆が全員、未来人?

これじゃ、ここは2020年の学校じゃない。

 

まるで未来の学校だ。

それともこれは集団で発生した奇病なのか?

 

サトルは「または、全員、体はそのままに30年後の記憶と精神を?」と心の中で呟いた。

その時だった。

 

寛巳が言った。

「環境問題りんかい点......」

 

サトルはどこかで聞いたことがある言葉だと思った。

そして、その言葉を聞いて全てを思い出した。

 

2050年に環境問題がりんかい点に到達した。

海面は大幅に上昇し、人間の住める場所は殺して奪い合う瀬戸際まで来た。

問題は2020年にあった。

 

環境汚染が2020年から指数関数的に進んだ。

ニュースでは連日のように「本当は2020年から道を正せば、救いはあったはずだ」と報道していた。

 

そして、俺は昨日実際に水素自転車で海面を見に行った。

海面は上がり、馴染みのあった街はもはや海の底だった。

 

途方に暮れ、量子ウォッチを眺め、30年間の時を思った。

家に帰り、ベッドでプラズマフォンを手にした瞬間、窓の外に大きな光が現れた。

そして頭痛がすると思ったら、俺はこの時代のベッドに寝ていた。

 

「じゃぁ、俺たちがこの時代に来たのは?」サトルは寛巳に言った。

「あぁ、そうだ。どういうわけか知らないが、きっと俺たちの手で環境問題を解決しろということだ」

 

寛巳はそう言うと、窓の外を見た。

窓の外には青い空が広がっていた。

 

俺は全てを理解した。

俺たちがこの2020年から環境問題に取り組む必要があること。

 

そして、未来を変える必要があること。

もし、環境問題が解決したとき、俺たちはこの時代の俺たちに戻るのか?

 

それとも30年後の俺たちに戻るのか?

それは分からない。

 

しかし、俺たちは30年後の記憶と精神を持った以上、環境問題に取り組まないわけにはいかなかった。




 

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