① 本気で本は精神病?
本:読者の方に、僕と明さん、それぞれの立場はわかってもらえたと思いますので、本題に入りますね。
明:実は、なぜ僕が本さんとこうして話しているかは、僕個人的に疑問な部分もあって、もしかして僕は被害者なんじゃないかとい言う疑念が……。
本:僕たち、友だちじゃないですか。
僕に明さんを害する気持ちなんて全然ないですよ。
明:その言葉をそのまま信じていいのでしょうか?
本:信じるものは救われますよ。さ、先へ行きましょう。
明:そこらへんが宗教っぽいですよね。
本:は? 麗しき友情です。
明:はぁ。麗しき友情ですね……。
本:で、ですね、僕はかれこれ20年ばかり道場をしているのですが、それ以前の自分の経験を通じて、武道の稽古は精神疾患にプラスに効果があるという思い込みがありまして。
明:あえて、問います。それはどうしてですか?
本:実は僕、中学1年生の時に、話せなくなったんです。
明:失語症ですか?
本:明確にそう診断されてはいないと思うのですけれども、結果として長期欠席も含めて、中学3年間で200日以上休んだのは確かです。
明:なにがどう話せなくなったんですか?
本:単純に、言葉が信用できなくなったというか、言葉なんて1人1人、厳密には違う意味を込めて話しているわけだから、いくら会話しても本当のコミュニケーションはとれないじゃないか、と。
明:それで中1で話すのをやめてしまった、と。
実は、僕も同じ想いを抱いたことがあります。いくら会話しても本当のコミュニケーションはとれないじゃないか、と。
あれは恐怖ですね。本さんもそう感じたんですね?
本:平たく言えばそうなんですよ。
いま(2020年)オタク風に言えば、言葉はみんなウソだ、「この世界は間違っている!!」みたいな。
明:気持ちはわかりますが、それは大変ですね。
本:東京グールのカネキくんじゃないですけど、なんだこの世界は!?
人と人は本気でコミュニケーションをとる気はないのか?
ウォォォォ!! と頭抱えて絶叫したりしてましたね。
明:他人事じゃないですが、それは病院に行った方がいいですね。
本:行きました。これって、周囲から見れば、あきらかに精神異常ですから。
明:いまは無事に復帰できたようでよかったです。
本:でも、あの頃の自分の感覚が100%間違っているとは思えないんですよ。
やはり人が口にする言葉は多くの場合厳密には嘘ばかりだし、それを言わないのが、お約束というか。
僕はそんなふうに解釈しています。
明:……で、そうした症状が落ち着く際に、武道が役だったということですか?
本:武道自体はそれ以前からしていましたが、世の中の見方としては、武道の世界というのはファンタジーで、だからこそそこに憧れや居心地の良さを感じるのはアリだと思います。
僕個人としては、格闘技関係だと、プロレスというジャンルそのものを観ることで心が癒されましたね。
嘘も現実も、すべてが観客、ファンの前に開示されてそれで成り立っているというか。
プロレスって現実社会そのものだな、と当時思ったし、いまも思います。
明:本さんはプロレスのおかげで話せるようになったわけですか?
本:日本のプロレスマスコミがほぼすべてをブチまけてしまうおかげもあるけれど、夢もロマンも陰謀も策略も結局、なにもかもファンの前にさらされるじゃないですか。
そこが非常に社会勉強になると思いますね。
言葉が信用できなくなった僕に、人間って、世の中って、こういうものなんだよ、とわかりやすく教えてくれたのはプロレスでした。
明:人間の裏表みたいなものですか。プロレスというジャンルが本さんの教科書なんですね。
本:非常に特殊なケースだと思いますけど。
明:僕もそう思います。
本:ので、座学的な思想の部分はプロレスから、肉体的には、9才の頃から道場に行っていて、高校の時に、本格的な空手の町道場に入門したんです。
明:その高校の時に入門したのが極真空手ですか?
本:そこは極真ではなくて、沖縄から日本へ空手を伝えた本人。
船越義珍先生の直弟子の方が指導されている松濤館流空手の町道場です。
武道、格闘技雑誌的な言い方をすると日本本土に最初に上陸した本物の空手ですね。
明:なぜ、またそこへ入門したんですか?
本:第二次世界大戦に兵士として参加された後、地元に戻ってきて、市役所の職員をしておられた先生が定年退職して、道場に専念しておられて、たまたまそれを知って、という形ですね。
明:本さんって結構マニアックですね。
本:そこに本物がある気がしたので。
結局、同じ高校の同級生も2人、僕に誘発されて入門してきましたよ。
松濤館で先生が教えてくれた空手はそういう意味では本当に人体破壊技術的なものだったので、すぐに路上のケンカに生かせる、まさに当時の高校生向きの技術でしたね。
厳しくて、おもしろくて、怖い道場でしたね。
明:すぐに路上のケンカに生かせる……って、話せなくなったあと、空手を使うワルになったんですか?
本:僕が行っていた高校では普通です。
ところで、明さんは、僕のプロレスや道場みたいな病気がよくなるきっかけ的な出会いはありますか?
明:僕の病気がよくなるきっかけ的な出会いは、今も続けているパソコン設定の仕事ですね。
僕はパソコン設定の仕事を始めるまで、普通に大学を出て普通に会社に入って普通に結婚するのだという、いわゆる普通の価値観で生きてきたんです。
でも、パソコン設定の仕事を始めてからは本当に色々な価値観を持つ人々と出会えました。
言ってしまえば、大学も出ない、会社も入らない、結婚もしないという人々です。(結婚は僕もしてませんが。)
そうすると、今までのレールから外れてもいいんだなと思い始めたんです。
そう思い始めたら、病気も段々と良くなったという感じです。
パソコン設定の仕事を始めるまでは僕の周りはいわゆる普通の価値観を持つ人ばかりでしたので、ずっと狭い価値観の中で生きてきたんだなぁと……。
本:大雑把にまとめると、僕も明さんも心の病気が自分を見つめ直すきっかけになったということですかね。
明:ムリにポジティブにとらえているわけではなくて、正直にそう思いますね。
病気は当時の僕からのSOSだったような。
本:そうですね。僕もあの自分の中から言葉がなくなる感覚は、人生のターニングポイントでしたね。
明:ですよね。あれは、恐ろしいです。
第一章 ② 精神病は死を呼ぶのか? へと続く